ついに公開!!!
名作「シュタインズ・ゲート」を題材としたオリジナル創作!!!
時系列としてはシュタインズ・ゲート世界線に到達した後という設定となっていますが、当然個人による勝手な創作なので、”エンタメ世界線”でのお話と思っていただいてもいいかと(笑)

シリーズ好きが高じて企画を思い立ってからおよそ1週間での執筆ということで、短い上に拙い作品ではありますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
なお2話完結の予定で、今回は前編。後編はこれから執筆しますので、少々お待ちを…w


追記・後編も公開しました!

(STEINS;GATEの二次創作に関するガイドラインについてはリンク先をご覧ください。ニトロプラスの公式ページとなります。)

関連記事リンク:「Steins;Gate ELITE」でシュタゲ熱が再燃!シュタゲゼロのアニメ版感想も!

※以下の作品を他サイトにまるごと転載するのはご遠慮いただきますようお願いいたします。

「鞍点近傍のルーティン」(前編)<執筆:エンタメ最高マン>

「ダァルよー。そちらの進捗はどうなっている」
 ――果てしなく長い夏が過ぎ、心地のいい清風が色づいた木々を揺らすようになった頃。
 秋葉原の裏通りにひっそりと佇む我が秘密の研究所・通称ラボにて、俺は二次元の美少女が走る姿を恍惚として眺めるダルへと話しかけた。画面の中の美少女が手を振るたび、ダルも気色悪い笑みを浮かべながら手を振っている。
 まったく、指示をしておいた作業もそっちのけで、さっきからPCに釘付けではないか。こいつはいったい俺を誰だと思っている?
 俺は未来ガジェットの開発という重大な責務を負う、ラボの創設者にして、狂気のマァァッドサイエンティーースト! 鳳凰院凶真なのだぞ!?
「ちょ、オカリン。見てわからん? 今はとてもそれどころじゃないっしょ。この胸の揺れッ! 激しい息遣いッ! あああああ、ありすたんぺろぺろ」
 しかしダルはそんな俺には見向きもせず、買ってきたばかりのエロゲに夢中という有り様だ。
「相変わらずダルくんは変態さんだねぇー」
 黙々とコス作りに励んでいたまゆりも、そんなダルを見ながら笑う。あの変態ぶりを目の前で見せつけられても嫌な顔ひとつ見せない女子は貴重だ。というか女神だ。もしここにクリスティーナがいたならば、「この変態! 氏ね!」と罵倒されていたことだろう。いや、ダルにとってはそれがまたご褒美になってしまうわけだが。
「そんなことよりもだ。……ダルよ、お前には世界を救うための重大任務、未来ガジェット15号機のはんだづけを命じたはずなのだが」
 ――未来ガジェット。
 それはこのラボが世界を混沌に陥れ、その支配構造を変革するために開発を進めている、スーパーでスペシャルな秘密道具の数々のことである。
 しかし断じてネコ型のロボットが未来から持ってくるような生易しいものではなく、機関のエージェントさえ歯が立たない危険な代物ばかりだ。
「半田付け? あー、そんなん頼まれてたような気もするケド……でもそーゆーのは牧瀬氏に頼んだ方がいいと思われ。喜んでやってくれるっしょ」
「そうしたいのは山々なんだがな。しかしあいつには頼めないのだ。作戦任務上の重大な事情があってな」
「オカリンはねー、この前クリスちゃんとケンカしてしまったのです」
「っなッ!? おい、まゆりッ! 余計なことは言わんでいい!」
 俺は慌ててまゆりの口を手で塞ぐ。
「えー、でもね、まゆしぃはオカリンが悪いと思うのです。だってねー、オカリン、クリスちゃんがタイムマシンのお話をしてたら急に怖い顔して怒鳴ったでしょー? まゆしぃもすごくビックリしたんだよー」
「いや、あれはその……まあ色々と理由があってだな……」
 ――タイムマシン。
 それは時間を移動することができる、SFの世界では夢のような機械。聞いただけで子供たちが嬉々として目を輝かせる憧憬の的。
 だが俺は――いや”俺だけ”はタイムマシンがそんな愉快な代物でないと知っていた。
 タイムマシンは駄目だ。作ってはいけないし、作ろうとしてもいけない。
 時空を歪めるということはこの世界を管理する神を冒涜することと同義だ。もしその不可侵領域に踏み込もうとすれば、人はたちまち罰を受ける。
 それは想像を絶するほど恐ろしく残酷な罰で、心や体を抉られるような痛みを伴う。そしてそう、俺はそれを身をもって体験した。だからどうしてもタイムマシンという言葉には神経質になってしまう。これも"後遺症"のひとつだと言えるかもしれなかった。
「――とにかく、オカリンは早くクリスちゃんと仲直りするべきだと思うなー。クリスちゃん、あの日ラボから帰るときすごく落ち込んでいたのです」
「む……。ま、まあそうだな。もしこのままあいつが助手としての役目を果たさないとなると機関との戦いに大きな支障をきたす可能性もある。その意味では仲直りしてやるのも……まあ、なんだ……悪くはないな」 
「ツンデレ乙」
「……なにをッ!?」
 ダルめ、こういう時だけ鋭いツッコミを入れてくる。さすがは俺の頼れる右腕《マイ・フェイバリット・ライトアーム》だ。こちらの複雑怪奇な思考などお見通しというわけか。
「あのねあのね、そういうことならまゆしぃはちょっと買い物に行ってこようと思いまーす。ちょうどバナナとジューシーからあげを買いに行こうと思ってたんだー。それでね、ダルくん、もしよかったらダルくんも一緒にどうかな?」
 一方でまゆりは俺に気を回してくれているらしい。天然に見えて、その実は誰よりも人の機微を鋭く察知する。自慢の幼馴染みだ。
「これはあからさまに厄介払いされてるパティーンですね、わかります」
 やれやれと大仰に手を振るダル。
「ごめんねー、そういうわけじゃないんだけどね。でもオカリンは恥ずかしがりさんだから、まゆしぃたちがいると話しづらいかなーと思うのです」
 こちらも驚くほどに的確だ。まさかこいつらには俺の脳内を読まれているというのか? いや、バカな。俺は泣く子も黙る”鳳凰院凶真”だぞ? そんなことはあり得るはずもない。
「まゆ氏はオカリンを甘やかしすぎだと思われ」
「うーん、そうかなー? まゆしぃはオカリンの人質だからね、これくらいは普通だよー」
「……リア充爆発しろッ! 今すぐに!」
 だがダルの悲痛な叫びなどどこ吹く風といったように、PCの中でも美少女がイケメンと抱き合っていた。
「とにかくオカリンはちゃんとクリスちゃんと仲直りしておいてねー」
まゆりは俺に向かって天使のように優しく笑いかけると、いつもの帽子をかぶって楽しそうに支度を始める。
「……エロゲ、今すごくいいところだったんだけどな。まあでも、まゆ氏と二人きりで買い物というのもそれはそれで萌える展開なわけで」
「おいダルよ、分かっているとは思うが、まゆりに変なことをしたらお前がいくらスーパーハカーと言えど許さんぞ」
「ちょ、ブラウン氏みたいなこと言わないでほしいお。あとハカーじゃなくてハッカーだろ、常考」
 ダルはまるでセイウチのような大きな身体をわざとらしく震わせた。それにしてもここのところ、こいつのサイズがさらに巨大化しているような……。
「じゃあオカリン、行ってくるねー。欲しいものができたらメールしてねー」
 そう言ってまゆりは見送る俺に手を振り、ダルと二人でそそくさと出かけて行った。
 ――そうして扉が閉まった途端、ラボは一気に静寂に包まれる。
 しかし寂しくはなかった。この世界にはまゆりもクリスもいる。二人とも元気に生きている。その事実を噛み締めるたび、俺の胸には熱く込み上げてくるものがあった。
 ――世界線変動率1.048599パーセント。
 ”今”という時がどれだけの奇跡の上に成り立っているのか。一度失ったからこそ、俺はそれを痛いほど知っているのだ。
「……よし」
 意を決して俺は携帯を取り出した。いつもの”演技”のためではない。せっかくまゆりたちが機会を作ってくれたのだ。クリスティーナにちゃんと謝ろう。あいつとああだこうだ言い合っていないと俺としても調子が出ない。そもそも、こんなことで意地を張っていても仕方がないではないか。
 しかし俺がちょうどクリスティーナに電話をしようと思ったときのことであった。
 ――突然ラボの戸がガタガタと音を立てた。
 今日は特に誰かが訪ねてくる予定はなかったはずだ。フェイリスはメイドカフェであるメイクイーンニャン×2でバイト中だし、ルカ子は神主である父親の客人に対応すると聞いている。萌郁は編集プロダクションでの仕事が忙しい的なメールが届いたばかりだ。
 ――となると残るは……。
「いや、まさかな……」
 脳裏に浮かんだのは一人のラボメンの顔。だがそんな偶然はあり得ないだろう。なぜなら、世の中は因果という名の必然にきつく縛り付けられているのだから――。
 ――などと考えながら玄関へ出た俺の視界の先にいたのは、なんとクリスティーナその人であった。え? 嘘? まじで?
「「あ……」」
 あまりの不意打ちに俺とクリスティーナはお互いに短く声を上げる。そして俺はクリスティーナと顔を合わせたまま、その場で固まってしまった。
 ……気まずい。……とても気まずい。
 何か言わなければと焦れば焦るほど言葉が出てこなかった。そうして続くのは居心地の悪い沈黙だ。
 ……もはやにらめっこの世界選手権か何かみたいになってきた。 クリスティーナはなんだか仏頂面だし。いやまあ、それはいつものことなのだが。というかにらめっこだったらもっと表情作れよ! 心の中で訳の分からないツッコミを入れながら、俺は必死で言葉を選ぶ。
「あ……えっと、岡部……いたのね」
 しかし空気に耐えかねて、伏し目がちに口を開いたのはクリスティーナの方であった。
「あ、ああ……。それよりクリスティーナこそ……一体何の用なのだ」
「べ、別に用があったってわけじゃ……ないんだけど」
 歯切れが悪くいつもとべて威勢が感じられないクリスティーナ。
「……ええと、そうだ、ま、まゆりは?」
「まゆりなら今は買い物に出掛けているぞ。ダルと一緒にな」
「そ、そう……」
 こうして再びの沈黙である。
 そもそも先日言い合いになってしまったのは、俺が冷静さを欠いたことが理由だ。ここは気恥ずかしさを厨二病で誤魔化すべきではない。こちらから素直に謝るべきだ。
 俺は一度目を閉じてゆっくり息を吸う。鳳凰院は一旦封印し、岡部として接するべきだろう。
「「あ、あの、この前は……」」
 ……だというのに、ええい、どうしてこうタイミング悪く被るのだ!
「……俺だ! 機関のィエーィジェントが現れた! ああ、そうだ、どうやらやつは人を金縛りにする力を持っているらしい。っなに!? 新たな作戦が始まっただと!? くそ、それがシュタインズゲートの選択だというのか……! ああ、わかった、任せておけ! ああ、心配するな、俺が何とかしてやるさ! エル、プサイ、コングルゥ……」
「……はいはい、厨二病乙」
「……お前も相変わらずの@チャンネラーぶりではないか」
「……うっさいわよ! 妄想全開のあんたよりマシでしょ」
 このままではまた言い合いになってしまう。そう考えた俺は不本意ながら話を戻すことにした。
「その……この前のことだが……お、俺が悪かった……タイムマシンにはいろいろあってな。つい熱くなりすぎてしまったのだ」
「お、岡部……」
 クリスティーナは俺が頭を下げると、驚いたように目を見開いた。それから一度深呼吸をすると俺の方へと向き直った。
「えっと……そ、その、なんというか……私もあの時はちょっと言い過ぎた。あんただけしか知らないことがあるのは分かってたのにね。だから……ごめん。少し……配慮が足りなかった」
 正直なところ意外だった。まさかあの強情で勝気のクリスティーナが俺に謝るとは。明日は季節外れの雪でも降るのではないだろうか。いや向こうも俺に対して同じ事を思っているかもしれないが。
「――よし、それじゃ問題は解決だな」
 俺はいつもと変わらず雑然としたラボにクリスティーナを迎え入れると、ダルが放り出したままの電子基板を指差した。照れくささを誤魔化すためにはちょうどよかったのである。
「早速だが助手よ、お前にしてはなかなかいいところに来た。実はひとつ頼みたいことがあるのだ」
「何よ、頼みたいことって。……つーか私はあんたの助手じゃないと何度も言っとろうが!」
こうしてすぐにいつも通りのつっけんどんな口調に戻るクリスティーナ。この切り替えの早さも実にクリスティーナらしいと言えた。
「頼みたいのは他でもない。未来ガジェット15号機、"蝶ネクタイ型録音機~犯人はお前だ~"の半田付けだ」
「またそんなガラクタを作ってるの? 録音なんて携帯で十分じゃない」
「馬鹿め。いいか助手よ、こうなったら仕方あるまい。鳳凰院凶真が直々に説明してやるからよく聞いておけ。録音機を蝶ネクタイ型にすることには大きなメリットがあるのだ。その最たるものは、万が一機関に捕らえられても奪われたり壊されたりする心配がない、ということ。それはつまり機関の裏取引の証拠を手に入れるために最適な発明なのだ! フゥーハッハッハ!」
「ダメだ、こいつ。早くなんとかしないと」
「……」
 俺の視線に気が付き赤面するクリスティーナ。
「と、とにかく! 岡部の妄想はどうでもいいけど、半田付けくらいはやってあげてもいいわよ」
「うむ。それでこそ俺の助手だな、クリスティーナよ」
「だから助手でもティーナでもないから! そういうこと言われるとやる気も失せるのよね」
「ほう、しかしその割にはなんだかウキウキしているではないか。どうやら実験大好きっ子としての血が騒ぐようだな? いや、恥ずかしがることはないのだぞ。これはラボの運命を左右する重要任務なのだからな」
「は!? 別にウキウキなんかしてないから! 小さい頃しょっちゅうやってた半田付けが久しぶりにできてラッキーとか、岡部と思ったより簡単に仲直りできて良かったとか、そんなこと一ミリも思ってないからな!? 岡部が困ってるみたいだから仕方なくやってやるだけ。勘違いするなよ……!?」
 相変わらずテンプレートなツンデレを発揮するクリスティーナ。彼女の幾分上気した顔が色っぽく、反射的に目を逸らしてしまったなんて誰かに言えるはずもなかった。

後編へと続く





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