名作「シュタインズ・ゲート」を題材としたオリジナル創作!!!

今回は後編となります。前編のリンクは以下。先に前編からご覧いただきますようお願いいたします。

関連記事リンク「STEINS;GATE」後日談的創作大公開!(前編) [エンタメ最高マンオリジナル二次創作]

(STEINS;GATEの二次創作に関するガイドラインについてはリンク先をご覧ください。ニトロプラスの公式ページとなります。)

※なお以下の作品を他サイトにまるごと転載するのはご遠慮いただきますようお願いいたします。

「鞍点近傍のルーティン」(後編)<執筆:エンタメ最高マン>

「ねえ、岡部」
 黙々と半田付けの作業を進めていたクリスティーナは、不意に手を止めて俺に話しかけた。
「ん、どうした、クリスティーナよ」
「……あんた、言ってたじゃない? 幾つもの世界線を漂流して、ようやくこの……なんだっけ? えっと……シュタインズゲート世界線……だっけ。今という時間軸にたどり着いたって」
 気が付くとクリスティーナは真面目な顔で俺のことを見つめていた。
「ああ、そうだ。俺は様々な世界線のお前と出会い……そして助けられてきた」
「……そう」
 クリスティーナは小さく呟く。
「正直言って私は世界線がどうとか、タイムリープがどうとか、簡単には信じられない」
「そうだろうな」
 もし俺がもしクリスティーナの立場だったとしても、こんな荒唐無稽な話など到底信じられないだろう。世界線の変動を読み取る力《リーディングシュタイナー》があってこそ、俺は記憶を維持できる。つまりこの世界線でクリスティーナは一連の事件を"何一つ"経験していないのだ。
「でもね、正直あんたの言うことが嘘だとも思えない。どこかで、あーそうなんだって思ってる自分がいる。不思議なんだけどね」
 だからこそ俺はクリスティーナの言葉に驚いていた。
 ――こいつは天才科学者だ。どの世界のクリスティーナもそうだった。どんな非科学的な事象も科学的に分析する。それが彼女が彼女たる所以。言うなればそう、それはアイデンティティなのだ。
 だというのに――。
「最近夢を見るのよ」
「夢?」
「ええ。色んな夢。でもどの夢にもなぜか……あんたが出てくる」
 クリスティーナはさらに続けた。
「ラボの人たちみんなで大騒ぎしている夢。まゆりを失ったあんたが悲痛に暮れてる夢。痛いほど強く抱き寄せられている夢。そしてそれから……」
 そこでクリスティーナはなぜだか言い淀んだ。見ればほんの少し頬が紅潮している。しかも俺のことを上目遣いで見ているときた。
 ……ははあ、機関め、これが噂のハニートラップというやつか。ぐぬぬ、確かにこれはなかなかに強力ではないか……。
「――言いたいことははっきり言うがいい、クリスティーナよ。俺は逃げも隠れもしないぞ」
 しかしそのような色香に惑わされるようではマッドサイエンティストの名がすたる。俺を一体誰だと思っているのだ、我が名は狂気の――
「……その……あ、あんたと……キスする夢……とか」
 ……って、ななななな何を言い出すのだこいつはッ!
「……ま、待つのだ、クリスティーナよ!」
「あ、あくまで夢の中での話だからな!? 勘違いするなよ!?」
 俺の動揺ぶりに感化されたらしく、すぐに慌てふためくクリスティーナ。二人してあたふたするという、端から見たら滑稽以外の何物でもない状況になってしまった。
「……俺だッ! まずいことになった! ああ、そうだ、機関はすでに我々の同胞にも手を回していたらしい! なにィ!? 新たなオペレーション、コード301が動き出しただと!? いや、しかしそれならこの危機的な状況にも説明がつく。そうか待てよ、それならば俺にも考えが……ああそうだ、こうなってしまっては仕方がないだろう。今こそ封じられた我が禁忌の力を解放するのだ! ……案ずるな、これは運命石の扉《シュタインズ・ゲート》の選択なのだからな。……エル・プサイ・コングルゥ」
 俺は落ち着くための時間稼ぎとして、携帯を耳に当てて厨二病を発動させた。正直なところそれはそれで恥ずかしいのだが、度合いの問題である。
「……ほんと、なんでこんなのが毎日夢に出てくるのかしら」
 俺を見て呆れ顔のクリスティーナ。
 しかしその表情はすぐに真剣なものへと変わっていた。
「……ねえ、岡部。私たちって別の世界線ではどんな関係だったの?」
 別の世界線での関係……か。俺は……。
「それを聞いてどうする?」
「内容にもよるけど。でも別にどうこうするつもりはないわ。だって私は私だから。ただ……」
「ただ……なんだ?」
「……知っておきたいって気持ちもあるのよ。あんたという存在が私に色々な影響を与えていることは事実だもの。簡単に言ってしまえば、その原因を明快にしたいってことね」
 返ってきた答えはいかにもクリスティーナらしいものだった。
 目の前に好奇心をそそられる命題があれば、必ずそれを解決しようとする。それが牧瀬紅莉栖なのだ。
 俺は少し考える。難しい問いだ。クリスティーナはもがき苦しむ俺を幾度となく励ましてくれた。まゆりを救うために手を尽くしてくれた。そして足を止めかけたときに叱咤してくれた。
 走馬燈のように駆け巡る記憶。それはまるで無数の宇宙塵《スターダスト》のように消えては浮かび、浮かんでは消えていく。だがすべては脳裏に焼き付いていつまでも消えることのない、”なかったこと”にした過去。
 俺はゆっくりと言葉を選んだ。過去を”なかったこと”にしたからといって、今の気持ちを”なかったこと”にすべきだろうか? いや、断じて否だ。
 ――そうして俺はクリスティーナを正面から見据えた。
「――大事な存在だ。ラボメンとして、助手として、だけではなく。これは俺にとってどの世界線でも変わらないことだ」
「お、岡部……」
 なぜだかわずかに目を潤ませるクリスティーナ。
 ……あ、あれ、やばい。思案の末、いつになく真面目に答えてしまったではないか! 遠回しとはいえ、これではなんというかその……まるで告白だ……!
 俺は脈打つ鼓動の音を沈ませるべく、性懲りもなく携帯を耳に当てようとしたが――。
「……岡部。えっと……私も、その、あんたのこと……大事な存在だと……思ってる」
 そこで俺は思わずクリスティーナを凝視してしまう。
 クリスティーナは経験していないはずの出来事を断片的に記憶しているにすぎない。それは誰しもが覚えることのある既視感《デジャブ》とも呼ぶべきもの。あくまで"見たことがあるような気がする"だけだ。
 だからこそ俺はクリスティーナと無理に距離を縮めようとは思っていなかった。生きていてくれるだけでいい。そんな風に考えたことさえもあった。
 ――しかし俺とクリスティーナは再び知り合った。結ばれた因果に引き寄せられるように。められた運命のように。
 それは本当の意味で"シュタインズゲートの選択"……なのだろうか?
 俺はクリスティーナへと向き直った。一方でクリスティーナは俺の方へと一歩踏み出す。息が掛かりそうなほどにお互いの顔が迫っていた。
 ――ガタガタ
 しかしちょうどその時。
 非現実的な間の悪さで、ラボの戸が再び音を立てたのだった。
「「……っな!?」」
 俺たちはその瞬間、反射的に、まさに蜘蛛の子を散らすように跳び跳ねた。
「――オカリン、ただいまー。……あ、クリスちゃんも来てたんだー! トゥットゥルー♪」
 いつも通りの笑顔でいつも通りの”効果音”を鳴らしながらラボに入ってくるまゆり。その手には膨らんだ買い物袋をぶら下げていた。
「あ……え、えっと……トゥットゥルー、まゆり」
「……あれ? オカリンも牧瀬氏もどしたん? なんかやけに呼吸が荒いような気がするわけだが」
 続けて入ってきたのはダル。なんと此奴め、目ざとく俺とクリスティーナの”異変”を感じ取った様子だ。有能の裏返しとはいえ、こういう時は厄介である。
「そ、そうか……? いや、そんなことは……ないぞ」
「え、ええ。別に私たちはまだ何もしてないからな!」
 ……おい、クリスティーナよ、その言い方では誤解しか生まんぞ! あえてはっきり言うが、なんでお前はそんなに"バカ"なのだ!
「……二人とも怪しすぎだろ常考。つーか、牧瀬氏のはほぼ"答え"なわけで」
 ……なんてこった! やはりダルに察せられてしまったではないか!
「ねえねえ、クリスちゃん! まゆしぃたちはジューシー唐揚げをたくさん買ってきたのです! よかったら一緒にどうかなー?」
 一方でまゆりは抱きつかんばかりの勢いでクリスティーナに迫っていた。なんだかやけに嬉しそうなのは気のせいだろうか。クリスティーナの方はまゆりの手を握っているし。
 しかしそこで俺はピピっと来た。
 なるほど、俺がラボで一人になるようにラボメンたちで話を合わせていたのだな。それならば奇跡的なタイミングでクリスティーナがやってきたことも頷ける。
「ええ、いただこうかしら。せっかくのまゆりのお誘いだもの」
「ほんとー? えへへー、嬉しいなー」
 クリスティーナの返事を聞いたまゆりは鼻歌交じりで電子レンジに唐揚げを入れた。もちろん電子レンジは電子レンジだ。”電話レンジ(仮)”などではない。
 ――俺はその様子を見ながらふと思いを馳せる。
 クリスティーナとまゆり。一度は二律背反の迷路に閉じ込められた二人が仲良く会話をしている。もしどちらが欠けたとしても、俺は俺でいられなかったに違いない。少なくとも”鳳凰院凶真”は死んでいただろう。
 だからこそ――。
 広い世界のほんの一角、こんな小さなラボで過ごす時間がとにかく愛しかった。代えがたい幸せがそこにあった。
 ――この時間をこれから何があっても守り抜く。
 俺はそんな決意を胸に湛え、久しぶりに声を張り上げる。
「よし、それでは第625回、円卓会議をはじめる!」
 ――そう、これは日常。
 ささやかでありふれていて、事件など起こるはずもない、平和で平凡な"ルーティン"。
 しかしそれでいてこの日常は尊く、ゆるぎなく、そして無二だ。
 だからこそここで何が起こるかは誰にも分からない。
 俺たちは不可知で不確かな世界に生きている。
 まるでそれは静と動の狭間。
 安息と憂いの交錯する鞍点のごとく。

 ――そんなとき、不意に戸をノックする音が聞こえてきた。
 重要な会議をはじめるところだというのに、一体誰が来たのだろう。
 ――しかし未来は誰にも分からない。
 俺はゆっくりとその戸を開けた。

 <完>

以上となります。
前後編合わせて1万字ほどの内容でしたが、いかがでしたでしょうか。

ちなみに、
紅莉栖「それじゃまゆり、今度一緒に行きましょう」
まゆり「いいのー? 嬉しいなー、クリスちゃんと一緒にお出かけだー」
ダル「ねえねえ、牧瀬氏牧瀬氏。一緒にイキましょうってもう一回言ってくれない? できればちょっと声を震わせながら」
紅莉栖「……黙れこのHENTAI!」
というような会話をぶち込もうと思っていましたが、時間の都合でカットしてしまいました(ので、あとがき”にぶちこみました笑)。

それにしても後編は公開を急いだためにあまり推敲もできておらず、また描写も駆け足になってしまった自覚があります。この辺りは反省材料として次回(があるかは分かりませんが)に生かしたいと思います。

ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!

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